第10号 天草大雪警報

 今季はとにかく冷える冬だ。第10号は、ここ数年天草に降ることが多くなった大雪についてふれたい。九州の中央の西側に位置する天草は暖かいところだというイメージを持つ方が多く、雪が降るとは驚きだという人も少なくない。子どもの頃から数年に一度、1日限りの雪化粧をするくらいといった記憶しかなかったが近年はなんだか様子が変わってきたようだ。本場の雪国の方々からすれば、まだまだ騒ぐ程ではない積雪量かもしれないが、雪との付き合いが薄い我々には一大事である。

・見慣れぬ景色

 私の住む場所は海が近く、冬は特に風が強い比較的暖かい地域だ。毎年微量の降雪はあれど、少々積もってもすぐに溶けてしまっていた冬の天草だが、2年前の大雪から段々と雪の降り方が激しくなっている。特に今季の雪は中々のもので、大雪警報が続いた。雪の対応に慣れていない私を含む天草の人々は本当に混乱してしまう。見慣れた景色がこれほどまでに姿を変えると、大いに心が躍るのだが楽しんでばかりはいられない。山間部に住む人々は道路が凍結してしまい、平地に下りてくることも厳しいという状況が続いていた。稀にしか積もらないので、ほとんどの人は冬用のタイヤやチェーンの装備もない。中には歩いて下山しタクシーで仕事へ向かう人もいて驚かされた。

・不慣れな雪道

 2年前の大雪の際は、偶然にも東北の雪道仕様の車でお越しの方が宿泊されており、同乗させてもらい食材の調達などへ出かける。この時の私は、一般的な軽バンを所有していたので迂闊には動けずだったが、雪国の車の頼もしさを実感する。出歩く人も不慣れな雪道に苦戦している様子を見かけた。近所に住む60代の方に伺った話によれば、50年ほど前には家から出られなくなるような大雪が降ったそうだ。今では四駆に乗っているので以前よりは行動範囲は広がったものの、雪の山道をドリフト走行する強者のようにはいかずで、やはり慎重に移動してしまうのだ。

・農業への影響

 私の営む民宿の周りには畑が広がっている。幸いなことに、町で冬の間に栽培している特産品のレタスには大きな被害はなかったものの、生育はあまり良くなく、枇杷などの果物に凍害が出るなど油断はできない状況だった。特に2年前の大雪では天草各地のビニールハウスが雪の重みで押しつぶされ甚大な被害を受けており、また大雪となったが今後は毎年になるのではないかと不安がる農家さんも大勢いる。

・子どもと犬は大はしゃぎ

 大人達の心配はなんのその、南国とも呼ばれる天草で育つ子ども達はこの大雪に大喜び。楽しそうに雪の中を駆け回る姿を多く見かける。私が子どもの頃に積もった雪などは大したことはなかったが、それでも泥混じりの雪だるまを大はしゃぎで友達と作ったことを思い出した。その時のようにと雪だるま作りに挑戦したのだが、あまりの冷たさにすぐに断念してしまう。子どもの頃のようにはいかないなと痛感した。

 うちの愛犬いぬじろうも雪道を普段より楽しそうに歩いていた。雪が積もったことでいつもは気づかない動物達の足跡を発見したりもする。小さい点々が部分的に広がっている跡を見つけたが、今のところこれが何の跡なのかはさっぱりわからずである。

・日常/非日常

 住み慣れ、見慣れた景色が一変するというのは、生活や被害という話は別として写真を撮る者としては、正直なところとても刺激になる。近所を何年も撮影していると新たな発見は少なくなる上に、どうしようもない飽きが出てきてしまう。この飽きと上手に付き合う為、これまでは遠方への出張から帰ってくることで、写真としての日常をどこかリセットしていたように思う。だが、大雪のような強制的に別世界へ誘ってくれることをどこかで期待するようになっていて、不味いなあとも思っている。「非日常」の光景には浮かれ高揚してしまうものだが、私が本当に追っているものは何の変哲も無い「日常」のそれの中に見え隠れしているものなのだ。本来ならば、いつでもこの高揚感を持って撮影に臨まねばと改めて気付かされた。この大雪が毎年恒例のものとならぬ様に祈るばかりだ。


写真・文 / 錦戸 俊康