第9号 金澤宏紀 / Hiroki KANAZAWA

 第9号は陶芸家・金澤宏紀を特集する。31歳の彼は、江戸末期より続く天草の老舗窯元のひとつ「丸尾焼」の次男として生まれ、18歳より陶芸の道に入った。丸尾焼での仕事としての作陶、そして自身を表現する為の作陶を続けている。確かな仕事と共に、彼が持つ少しシニカルな部分と不思議な品格に惹かれている。そんな金澤宏紀の現在を、友人のひとりとして私なりにまとめようと思う。

・作品

 彼の主な作品は、天草産の陶石から出来た粘土を使った磁器が多い。限界まで薄く鋭く形作られた口縁や美しく整ったフォルムの器が印象的である。その形だけでも美しいと思える器たちに、「上絵」と呼ばれる本焼成後に追加する工程が入る。表面に金や銀そして白金といった金属類を主体とした液体を塗布し仕上げることで、出来上がった器は荘厳さと繊細さを備えており、思わず見惚れてしまう存在感を放つ。ゴツゴツとしていて荒々しくも思える形状のカップは、その見た目からは想像できない持ちやすさと手に馴染む重量だ。私は昨年より出るようになった少し赤みがかった金色のカップが特に気になっている。

・作陶の場

 彼の仕事場は大きくふたつあり、ひとつは丸尾焼の工房。こちらでは窯元の展示室に並べる器たちと個人の作品のどちらにも対応できるようになっており、トレードマークの赤いジャージを着て何かしらの作業に没頭している様子をよく見かける。どの作業も迷いなく的確に遂行されており、数え切れぬほど繰り返された工程なのが見て取れる。もうひとつの仕事場所は2年前に結婚した彼の家族との住まいである自宅裏にある作陶場だ。陶芸家同士での結婚なので妻との共用場所とのこと。ろくろを引くたび、太く逞ましい指先から薄く細いエッジの効いた作品が生み出されていくことに毎度驚かされる。

・上絵

 「上絵」と呼ばれる工程に初めて居合わせた際は、彼のマスク姿と空間に立ち込める鼻を突く臭いが衝撃だった。美しく仕上がった器しか見ていなかったことを思い知らされた。本焼成後に塗られたばかりの金属薬品はなんともベタベタした印象だったが、この状態からあんなにも美麗になるとは思えずとても意外に感じる。撮影は短時間なのでマスクは必要ないと舐めてかかった私は、この後クラクラとなり参ってしまった。

・展示活動

 彼の作品は国内各所で展示販売されており、私はタイミングが中々合わずで熊本市での展示しか伺えていない。東京都内や京都の大手百貨店で取り扱われることも頷ける作品たち。丸尾焼の展示室でも彼の作品は並んでいるが、個展の方が器の種類も点数もずっと多い。妻である陶芸家の木ユウコと共に『Scarlet Company』というブランドを立ち上げ、子どもの為の器作りを始めていること。これまでの彼のイメージとはまた違う展開が始まっている。こちらのブランドでは器の形成を金澤宏紀が担い、木ユウコが絵付けを施す。

・音楽

 その仕事ぶりや作品でも驚かされてばかりなのだが、金澤宏紀の活動範囲は陶芸だけに留まらない。音楽は彼の人生において、とても重要な存在の様で、組んでいるバンドでのギターだけでなく、三線や太鼓といった様々な楽器を眼の前で弾いてみせる。新しいミュージシャンにも敏感で、よくCDを貸してくれる今では稀有な存在だ。このご時世なので毎月何枚もCDやレコードを買う人は少ないだろう。しかし彼は気になれば即購入というスタンスに変わりはないそうだ。勧められた「D.A.N」というバンドに、3歳の娘を含む私の家族全員が嵌ってしまい昨年末に金澤宏紀夫妻と私の家族で福岡までライブを観にいくことになろうとは思ってもいなかった。色々な影響を与えてくれる不思議な男だとつくづく思う。作陶工程で、ろくろを引いた後に削る道具にギターの弦を使っていることも面白い。

・慣れている男

 この男は、とにかく写真に撮られることに全くと言っていいほど抵抗がない、慣れている男だ。そして、私によく撮影を依頼してくれる有難い存在でもある。彼の結婚式も撮影を任され、娘さんの1歳の誕生日には家族写真を依頼してくれた。そしてその写真を年賀状にしたということもとても嬉しい。不思議なものだが、お互いの妻が同じ誕生日だということにも妙な縁を感じてしまう。娘同士もとても仲が良く、これからも家族一同末永く宜しくお願い致したい。家族での交流が増えたので、より一層彼の写真は増えていくのだろう。その強烈な個性と芯のある作品で日本だけでなく、是非とも世界で暴れまわってもらいたい。宏紀よ!いつもありがとう!


写真・文 / 錦戸 俊康